誰にでも襲いかかるこの化け物。

どう対峙すればよいものか。

強力な新人二人を加入したアパッチは二回戦も7対0で快勝。

この試合に勝てば準決勝に進出という三回戦

驚いたのはギャラリーが30人近くいた事だ。

 

ギャラリーといってもお目当てはアパッチのエースY本君だ。

審判団から聞いたのか他のチームから聞いたのかAリーグのチームも注目している。

ギャラリーがいる試合なんて経験のないアパッチにとって、その視線は凶と出た。

3回終わって打たれたヒットは1本だが5つのエラーで4対0

エラーした選手は『すみません』とベンチに戻り うなだれている。

今までは負けても仕方ないとか、

レベルが違うとかそれぞれの言い訳で納得することが出来たであろうが、

このY本君のピッチングで試合に負けたらエラーした自分のせいだと思ってしまうのは

至極当然のことである。

これだけのギャラリーがいればさすがに緊張する。

他のチームから

『ピッチャーかわいそう』

こんな声が聞こえてくる気がしたくらいだ。

Y本君が投げて初めて追いかける展開。

点を入れなきゃ勝てないし

これ以上エラーでの失点は許されない状況。

 

誰もが思ったに違いない

『打球よ頼むから自分のところに飛んでくるな!』と。

とうとう あの化け物が降りてきやがった!

そう『プレッシャー』という化け物が。

野球の楽しさが消え

ベンチからバッターへの声援も小さくなる。

右を見ても、左を見ても険しい表情ばかり 。

 

が 一人だけ違う男がいた。

もう一人の新人 キャッチャーのH原だ。

彼は三番バッターだが

今日、いやこの三回戦までノーヒット

今日に限っては2三振である。

 

彼もギャラリーからの期待を裏切っている一人であったが

その彼だけはニヤニヤとしている。

 

そんな彼に気付いた鬼コーチY原さんが

『ふじ!お前なんで負けてるのに笑ってんねん』

『少しは気合い入れろ』

ふじはこう答えた

『めっちゃ気合い入ってますけど、緊張しちゃうと力んじゃうんです』

前の監督に

『試合中は笑顔でいろ!』

『笑顔でいると余計な力が入んないから』

 

要するに、力まないということだ。

今うちのベンチに笑顔はない。

状況的に 心も体も 緊張やプレッシャーで硬直し、

力んでしまっては本来の動きなんて出来るはずがない。

Y原さんを見ると気持ち悪い程の笑顔をつくりながら体を動かしている。

何かを確認した後に

 

『ほんまや!』

『笑っていこ! 笑って!』

 

今日2つエラーしているM坂さんにY原さんが

『M坂さんはあれな! 一番笑わなあかんで!』

 

自然と皆から笑いがこぼれる。

さっきまでの雰囲気が嘘のようだ。

 

その後はエラーもなく2点返したアパッチ最終回 7回裏の攻撃

4対2

ツーアウト二塁 三塁

バッターは3番のフジ



ヒットが出れば同点 アウトならゲームセットのこの場面

フジは   笑ってない!

 

ここで笑わないのかと思った瞬間ベンチにいた今日2エラーのM坂さんから

『フジ! お前笑ってないと ただのゴリラだぞ!』

 

今日1番の笑顔が出た瞬間

カキーン!!

 

両翼90メートルあるグランドを感じさせないサヨナラホームランだった。

 

準決勝から4番になったフジ  Y本君の素晴らしいピッチング 3対0で勝利

決勝は4対3で 勝利

 

アパッチ6年目 春の大会Bリーグで初優勝!!

 

プレッシャーに打ち勝つことは難しい。

それでも プレッシャーを感じた時には必ず思ってしまう。

あの大きな笑顔が フジに奇跡のようなサヨナラホームランを打たせてくれたのだと。

次回9球目へ続く。

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